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アキバでメイドの夢を見る

Part.21 安寧の鳥籠


歩いていた。
何も分からないまま、歩いていた。
辺りには、ただひとつを除いて何も無い。本当に何も。景色や、物等は一切無い。唯一何も無いこの真っ暗な空間にあったのは、ひとつの道だった。

歩くしかなかった。
他に何も無い、ここで。出来る事、やれる事、はただそれしかなかった。意識など関係なく、それだけをしていた。呼吸をしていることで空気がある事を知る。自身の身体を使って判別できるものしか、ここには無い。

ずっと歩き続けていた。
突如目の前に2つの分かれ道が現れ、そこに開かるそれぞれの扉。扉を自身が認識できるのは、何も無いと思っていた空間でも、僅かに光があることの証明であった。扉に書かれた文字は古からのシンプルな2つ、天国と、地獄。
大多数の人間が、きっと迷わず天国の扉を選ぶだろう。そして少数の考える人間が、迷った末に天国の扉を選ぶだろう。残りごく僅かな疑心暗鬼が、迷った末に地獄の扉を開くだろう。そして、最後にはみ出た数人の奇特な人間が、迷わず地獄の扉を開くだろう。

僕は、迷わずに地獄の扉を開いた。


往々にして、幸福は退屈だ。
刺激、驚き、悲しみ、人生を彩る必要悪達。それらが無ければ、ツマラナイのだ。

扉を開いた先へ歩いた。
何も無い、霧がかかった景色の中を1人で歩いていた。何も無いけど、進んでゆけと聞こえもしない大衆の声がする。
霧があるから何もないと思うのか、本当に何も無いのか、判断できぬほどの濃霧。ひとつ分かること、肌触りの湿った空気をそっと吸った。

暫し歩いていると、何かを認識した。
目の前に落ちている、何か。目を凝らして見ると、動かない虫であった。触覚などの動きが無いことから息は絶えているようだ。息絶えてもなおその美しい色と照りが残る。この何も無い空間に、突如現れた虫は異形だったが、一度でも見たことがあるもの、それはすぐに普通の景色となり、生き絶えた今は、美しさに癒される事もない、突然の驚きが冷めた後は、ただの風に吹かれたら飛ばされるゴミだ。
変わらず床で照り続ける虫を背に、また何処に向かうかも分からずに、歩みを始めた。

途方もなく歩く。
何故、歩いているのかも、何処に向かっているかも、分からないまま。まるでそれしか出来ぬかの様に。立ち止まればどうなるだろう、そんな事も考える事無く、もはや足は勝手に動き続けていた。

また、落し物を見つけた。
目の前に落ちているモノ、潰れた鴉だった。
死んでいるのは一目瞭然だった。鴉だと分かったのは、散らばった黒い羽と臓物の間に、顔だけが残っていたからだ。目を凝らしてしまったばっかりに、徐々に込み上げる嫌悪感。この空間で初めて動かされる感情、緩やかにえずく。何故この空間で、どの様な罪を犯せば、その様な形で死を迎えるのか、薄気味が悪かった。これが地獄という事なのか。惨い姿で、命を奪われる事が。


可哀想な鴉の骸を尻目に、また歩き出す。
可哀想。可哀想とは何だろう、自身が決めた、命の重さだ。知ってしまう。鴉が死んでいたら死体だと思った、虫が死んでいたらそれはゴミだと思った。それが、自身の決めた命のボーダーラインなんだろう。価値なんだろう。同じ命なんだから、という言葉の整合性のなさに、途端に価値観が崩壊していく。なら、自身の命の価値は?それは、一体誰が決めるんだろうか。

2つの死に目を背に、前へとまた歩みを進める。
ふと気づけば、足取りが少しずつ重くなってきた。どれくらい、もう歩いたのだろう。ゆっくりとゆっくりになり、次第に足は止まった。気づけば、歩いていた道はとうに無くなっていて、足元も、目の前も、全て何もない、真っ暗な空間に来ていた。
段々と呼吸が浅くなるが、息苦しくは無い、自分の呼吸が静かに止まるのを感じた。
身体の細部が少しずつ止まり、ゆっくりと全ての機能が止まり、意識だけが残る。


そう、全てが無。
真っ暗な、静謐な、真空に意識だけが永劫に残る。
これが、地獄の扉の先だ。想像していた阿鼻叫喚などではない。永遠の、無。
あの時、天国を選んでいたとして、其処は平穏で平和で、慣れて、常に幸福を与え続けられる、永遠の安楽だ。そこにあるのはそう、地獄のそれと何も変わらない。だからあの時どっちを選んだかなんて些細なことで、自分で選んで、ここにいる事が、真実だ。
永劫の無の中で、見る夢はなんだ。



真空の鳥籠。
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